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#11 “ZERO to ONE”の発想から生まれた独自技術を駆使して
環境負荷を減らし、全地球的規模の課題解決の一翼を担う

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  • 株式会社ディーピーエス
#11 “ZERO to ONE”の発想から生まれた独自技術を駆使して環境負荷を減らし、全地球的規模の課題解決の一翼を担う

今、人も企業も、SDGs(持続可能な開発目標)、そしてESG(環境・社会・ガバナンス)について、しっかりと意識すべき時代を迎えている。自然への負荷、環境の犠牲を最小限に食い止める努力が求められる中、独自のDualPore™技術を駆使して、微量金属・物質の吸着・分離・回収を高性能かつ高効率に実現し、リサイクルや高純度化のニーズに応える製品の研究・開発に取り組んでいるのが、株式会社ディーピーエスだ。心臓血管外科医という異色の経歴を持つ代表取締役社長 白 鴻志(はく こうし)さんに起業から現在までの過程と、これからについて語ってもらった。(聞き手:郡 麻江)

医師もものづくりができる!その気づきから起業という新たな道へ


白社長のベンチャー設立のきっかけとなったのはどんなことでしょうか?

私は心臓血管外科で医師として勤務していました。当時は、今ではスタンダードな治療となっているカテーテルやバルーンが最新技術だった時代です。まさに医学は日進月歩で医薬品や治療法の開発は日々、進化していると思います。ただ医師として働きながら、日本という国は、“ZERO to ONE”で新しいものやことをゼロベースから生み出すことが難しい国なのだということをずっと感じてきました。他の国で生まれた、すでに“ワン”になっているものをブラッシュアップして精度を高めることは上手なのですが、新しいものを一から作るということは、なかなかできないんです。
特にアメリカのスタンフォード大学やハーバード大学で研究をしていた頃に、そのことを如実に感じました。なんと医師が企業内で「チーフメディカルオフィサー」という立場で開発やマネジメントにも関わっているんです。それを目の当たりにして、非常に面白いと思いました。アメリカでは大手製薬会社に多くの医師が様々な業務を担って働いていましたが、日本だと製薬会社にはほんのわずかな医師しかいません。「製薬会社が作る側」、「医師が使う側」というように、一元的な関係しか築けないんです。しかし、アメリカでは医師が研究をしながら、その研究に直結したベンチャーにも関わっていて、「医師もものづくりができるんだ」!という発見はまさに目から鱗でした。ベンチャーの世界に飛び込むことを考えたのは、このことがきっかけだったと思います。その後、「白先生」から「白さん」と言われる立場に変わって、最初は慣れなかったんですが(笑)、好きな研究に直結するものづくりをして、それをマネジメントする仕事は、まさしく自分の望んだことで、今、非常に面白い仕事をしていると実感しています。

同社が入居する京大桂ベンチャープラザ
同社が入居する京大桂ベンチャープラザ。

起業までの経緯を教えてください。

まず、アメリカの細胞治療開発や遺伝子治療開発をしている企業に勤めて、開発や経営まで携わり、経験を積みつつ視野を広げてきました。帰国後、医療機器開発会社の副社長を勤めているときに、京大の中西和樹特任教授(名古屋大学教授を兼務)のチームが発明したシリカモノリスという素材に出会いました。シリカモノリスは、京都大学において長い研究期間を経て誕生した、高機能かつ先端素材です。さらに研究を重ねて生まれたシリカモノリスゲルを粉砕して粉末化した「DualPore™(デュアルポア)」というシリカゲルを素材とする素晴らしい材料が誕生しました。
そもそもシリカゲルは、安全性が確立しているので、医療や食品を含む様々な業界への汎用性が広く、すぐに応用していけるというのが最大の魅力でした。「この素晴らしい材料を様々なニーズとマッチングさせたい」という思いで、2017年にこの会社を設立しました。
社名であるディーピーエス(英文表記DPS Inc.)の由来は、Dual Pore Solution の頭文字をとっています。当社のコア技術である「DualPore™」を駆使し、柔軟な発想でオンリーワンの特殊技術を持つ開発型企業として、環境問題など社会課題の解決(Solution)に臨む、と言う意思を社名に込めました。

事業パートナーを開拓し、「DualPore™」の可能性をさらに拡大


「DualPore™」の強み、魅力とはどんなものなのでしょうか?

まず、「DualPore™」についてご説明しましょう。「DualPore™」を構成する粒子(以下、DualPore™粒子)は、従来の粒子に備わっているナノスケール(10-9m)の「細孔」に加えて、マイクロスケール(10-6m)の「貫通孔」を備えています。「細孔」は粒子内部に無数にある緻密な孔で、この孔の内側で目的物質を吸着・分離・回収します。二段階(Dual)の孔(Pore)をあわせ持つことで、非常に高い通液性と有効比表面積を持つ粒子となり、さまざまな強みを発揮します。
この「DualPore™」素材を応用して、すぐに使ってもらえるようにカートリッジに充填したものが、「DualPore™金属(メタル)スカベンジャー」です。この製品は、溶液や廃液に残留している微量金属を、効率よく吸着して回収し、再利用や売却ができるようにするものです。

試験管の中のDualPore™の粒子。なんと細かい!この微小な粒子にじつに様々な可能性が秘められている。
試験管の中のDualPore™の粒子。なんと細かい!この微小な粒子にじつに様々な可能性が秘められている。

私は「廃液中の微量な希少金属は、未だ眠る都市鉱山」であると考えています。現在、プラチナやパラジウム、ロジウムなどの希少金属は、国内消費量の3分の1がリサイクルされています。が、それはつまり3分の2が未回収ということになります。貴重な金属の大部分は廃棄されてしまっているのは、非常にもったいないですし、また、廃棄した部分を新たな採掘で賄うことによる環境負荷の面からも望ましくありません。
「DualPore™金属(メタル)スカベンジャー」は、高価な高圧ポンプや設備を必要とせずに、汎用的なカートリッジですぐに使うことできます。工場から出る大量の溶液や廃液から、従来の技術では難しいとされている、数ppm(百万分の1濃度)レベルの低濃度の貴金属やレアメタルを回収できるだけでなく、従来の約80倍の速度で濃縮して回収できます。
この製品はすでにいくつかの大手企業に採用されていますが、今後さらに、電池、電子機器・家電品メーカー、自動車・金属材料メーカーなど、希金属回収に取り組む事業パートナーを広く求めていきたいと考えています。

同社のラボではパラジウム除去実験をはじめ、様々な研究や検証が行われている。
同社のラボではパラジウム除去実験をはじめ、様々な研究や検証が行われている。

「DualPore™」の今後の展開と課題について教えてください。

先ほども申し上げましたが、今後はさまざまな業界の、専門的な、戦略パートナーを広く募って、この素晴らしい技術の可能性を広げていきたいですね。まずお客様が求めるニーズに真摯に耳を傾け、そのニーズに対する解決策を弊社独自のDualPore™の技術を応用した画期的な製品として応えていく、これが当社の基本方針です。
ではそれをどのように実現していくのか?私たちがほんとうに良い魅力的な材料マテリアルをもっていることは事実ですが、それをどう売っていくか?は、常に課題となっています。ビジネスですから、業績も上げていかないといけないし、京都iCAP(京都大学イノベーションキャピタル株式会社)さんのような投資会社にも納得してもらわないといけない。ものづくりへのこだわりと愛情をもちながら、戦略的に当社の製品の“ウリ”を考えて、世に広めていく必要があります。その上で、様々な分野の事業パートナーと手を携えて、新たな製品を生み出し、フィールドを広げていかなくてはなりません。
そのためには科学、化学、技術などの専門の知識を持ち、マーケティングの手法も活用できる専門分野に特化した営業職が必要となってくると思います。この素晴らしい素材をどう使って、どう応用させていくか、そのシナリオを柔軟な頭で描ける人が必要となってくるでしょうね。SDGsのみならずESGも見据えて当社の製品の魅力を伝え、相手に関心を持ってもらえる。そういう人材の育成は急務だと思います。

オンリーワンの技術で地球的規模の課題に取り組んでいく


ご自身が起業をされたわけですが、これから起業したいと思っている若い人たちへのメッセージをお願いします。

AppleでもAmazonでも、たった一人のアイデアから生まれたものです。まさにゼロからオンリーワンを生み出す力。日本人には苦手なことかもしれませんが、この“ZERO to ONE”の発想こそ、起業の原動力になると思います。起業することは簡単なことではありませんし、起業したからといってもちろん全てがうまくいくものでもありません。私自身は「まずは一点突破」を常に考えています。そこを突破すれば、次が必ず、見えてきます。
当社の仕事でいえば、「DualPore™金属(メタル)スカベンジャー」の非常に優れた通液性がまず証明できた。そこを突破したことで、様々な企業から共同開発のオファーが来るようになり、現在、それらのプロジェクトを複数、進めているところです。 一点突破を積み重ねていけば、研究や技術を評価して、投資という形でサポートしてくれる企業も現れてくれます。京都iCAPさんは常に経営目線で意見を言ってくれるので、研究に比重がかかりやすい当社にとって非常に助かっています。起業を成功させるにはこういった冷静な投資家目線も非常に大切だと思います。

「この素晴らしい材料とニーズのマッチングがようやく様々な分野で実現しつつあります」と話す白 代表取締役。
「この素晴らしい材料とニーズのマッチングがようやく様々な分野で実現しつつあります」と話す白 代表取締役。

今、日本の若い世代には、「失敗したくない」という思いが強く感じられますね。そういう意味では、日本の若者たちはかなりコンサバティブですね。でも、今、世界は本当に激しく動いています。新型コロナにしても、経済の動きもまだまだ先行きが見えません。そんな混沌とした中で、自分らしさや日本らしさ、他者とのちがいをどうやって示すのか?何をウリにするのか?そういった発想を持てないと、おそらく、個人も、社会も、国としても、尻すぼみになっていくだけではないでしょうか?
起業にはリスクがあります。でも、これをやってみたら面白いのでは?というアイデアや発想を持つ人、何かを生み出したいと考える人には、ぜひ挑戦してほしいです。もちろん、自己責任ではありますが、失敗というのは、避けたり、ただ恐れるものではないと思うんです。失敗こそが次へと繋がるステップになる。言い換えれば、失敗がなければ進歩も成長もないのですから。
ステップアップしつつ、手応えをダイレクトに感じながら前に進めるのもベンチャーの魅力です。もちろん、社員や投資してくださる方に対する責任もありますし、経営マネジメントとなると頭が痛いことも多いですが、自分の好きな開発をして、それを製品化して売って、他の企業と提携して応用発展させていく、今の仕事はとてもやりがいを感じています。“ZERO to ONE” の発想から生まれた、オンリーワンの技術を大きく育てて羽ばたかせて、全地球的規模の課題解決の一翼を担うこと、これが当社の目指す道です。近い将来、失敗を恐れず、チャレンジしたい若い世代と組んで、柔軟に、大胆に、仕事をさらに発展させていけると面白いですね。

(2021年8月取材。所属、役職名等は取材当時のものです)


投資担当者より

白社長は、2007年からシリカモノリスの事業化に取り組んでいて、他の素材ではなし得ない数多くの用途を見つけています。そのなかで近年レアメタルをリサイクルする必要性が高くなっていることをうけて、パラジウム回収を事業化し、製品出荷を開始しています。
起業家が、強い想いをもって京都大学で生み出された新素材のポテンシャルを引き出し、社会の課題解決に役立てているスタートアップ企業です。

四本 賢一
四本 賢一

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株式会社ディーピーエス

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