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#02 マイクロ波送電でIoT時代の「電力革命」を

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  • Space Power Technologies
#02 マイクロ波送電でIoT時代の「電力革命」を

マイクロ波を使って電力を無線で送る――。そんなワイヤレス電力伝送システムの実用化を目指しているのが、株式会社Space Power Technologies(SPT)である。京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)の支援を受けて2019年5月に設立された。同社の目的は、「電力革命」を起こすこと。コンセントから電線を引っ張ることなく、無線による送電を可能にすることで、どこにいても自由に電気を使える社会を作りたいとしている。まずは、工場内のピッキングシステムや工作機械を対象に、マイクロ波を使った無線給電の事業展開を予定している。起業に至る経緯や京都iCAPの支援体制について代表取締役 CEOの古川実氏と取締役 CFO 兼 経営企画部長の武田祐司氏に聞いた。(聞き手:伊藤瑳恵)

キャピタリストと二人三脚


会社設立に至るまで、古川さんはどのようなキャリアを歩まれてきましたか。

古川

もともとエネルギーに関心があり、学生時代は宇宙太陽光発電衛星について研究していました。その後、無線機メーカーに就職し、携帯電話や放送関連のシステムに使われる無線機器の製品開発を行ってきました。会社が自主研究を黙認してくれる環境だったので、平日は製品開発をし、週末は自主的にマイクロ波送電の研究をする生活を送っていました。この技術は、SPTの事業の基礎になっています。


長年、無線の研究をされていたのですね。独立のきっかけは?

古川

自主研究の成果として特許を複数出願できたことも功を奏し、会社の新規事業として無線給電を選んでもらえたのです。しかし、喜びも束の間、既存事業が忙しくなり、無線給電の事業は縮小することになりました。それなら自分で会社を作って事業を立ち上げようと決意し、SPTを設立することにしました。


迷いはありませんでしたか。

古川

実は、前職の会社員時代から、埼玉大学の博士課程に在籍していました。会社員と学生の両立は難しく、10年近く休学している状態だったので、復学して基礎技術を研究してから事業を起こそうとも考えました。復学するか起業するか迷っていたときに、お世話になっていた方から京都iCAPのキャピタリストをご紹介いただいたのです。起業したらやりたいと思っていた事業内容を説明したところ、京都iCAPの支援を受けられる可能性があると言っていただいたので、起業に挑戦しようと決断できました。


起業するに当たり、苦労されたことはありますか。

古川

最初にネックになったのが資金調達でした。会社設立当時、CFOの武田は、まだ銀行のNY支店で勤めていたため、連絡を取り合ってジョインを待ちながら、資金調達を始めとしたCFOの業務は京都iCAPのキャピタリストに代行してもらっていました。投資家への訪問から契約書のコピーまで幅広く支援していただきました。キャピタリストと二人三脚で会社を設立したと言っても過言ではありません。

古川実
古川CEO

責任が重い分、やりがいも一入


資金調達について豊富な知見を持つ京都iCAPの支援は心強いですね。武田さんは、京都iCAPが運営する起業家候補クラブECC-iCAPの会員だったそうですね。なぜご登録されていたのですか。

武田

銀行員としてキャリアをスタートさせて以来、金融業界で経験を積んできました。金融への関心もさることながら、実は幼少期から科学技術に対して憧れを抱いていました。銀行員として働きながらも「いつか科学技術に立脚した仕事がしたい」という思いは捨てきれませんでした。そんな野心があったので、SPTを担当してくださっているキャピタリストと面会する機会があった際、「こんなに面白いことをやっているのか」と驚き、まずはECC-iCAPに会員登録することにしたのです。


転職されることに葛藤はありませんでしたか。

武田

最初はなかなか踏ん切りがつきませんでした。長年勤めていた会社を辞めることは居心地の良さや恵まれた待遇を手放すことにもなるので、もちろん葛藤はありました。決断できたのは、キャピタリストからSPTの事業についての評価など信頼できる情報を提供してもらえたことが大きかったです。サラリーマン人生が後半に差し掛かったタイミングで、この先どういうキャリアを歩みたいのかを正直な気持ちで考えられました。やりたいことや得意なことを見つめ直し、「やるなら今でしょ!」と挑戦の道を選びました。


CFOとして、どのようなやりがいを感じますか。

武田

同じお金を扱う業務でも、以前働いていた銀行とベンチャー企業では相対するものがあります。今は経理業務も私が担当しているため、会計システムの使い方や支払い方法も全て一から自分で決めなくてはなりません。責任は重いですが、逆に言えば自分次第でどうにでもできる。そこに強くやりがいを感じます。京都iCAPのキャピタリストからは、「総務のおやじで終わるな」と発破をかけられたこともあります。これは、資金調達を目的として動くのではなく、あくまでも事業戦略に主眼を置いた資金調達ができるCFOになれということ。事業戦略を練った上で、適切な資金を調達するための戦術を立てるよう心掛けています。

武田祐司
武田CFO 兼 経営企画部長

社会を変えるかもしれない技術


これから展開される予定の事業内容を教えてください。

古川

電力をマイクロ波に変換して送信する「マイクロ波送電」の技術を使った事業展開を目指しています。京都iCAPをご紹介いただき、この分野をけん引されている京都大学の篠原真毅教授に科学顧問として参画していただいています。篠原先生は、宇宙空間で太陽光発電を行い、地上に電力をマイクロ波で送電する宇宙太陽光発電衛星の研究をはじめ、マイクロ波送電の実用化の研究を進められていますが、SPTでは、そのマイクロ波の技術の地上利用を展開していこうと考えています。


製品化の予定は?

古川

実は無線給電に関してはまだ法律がなく、2020年度にようやく制度化される見込みです。今回の制度化の対象は屋内の無人エリアなので、まずは工場などで使用できるワイヤレス電力伝送システム機器「Power Gate」の提供を予定しています。この機器をピッキング指示システムの給電に使えば、バッテリー交換や充電の手間をなくすことができます。このほか、電池や有線による給電が適さない工作機械の異常検知センサーへの応用も想定しています。


今後の計画はどのように展望されていますか。

古川

他社との差異化を図るため、使用する電力が高出力である工場などに特化した事業を展開していく予定です。無線給電の用途は多岐に渡ります。基本的な技術は通信や放送でベースができているので、競争は激しくなるでしょう。普及すれば一気にスタンダードになる可能性があるので、トップランナーとして走り続けられるよう、知財の構築やパートナーとの協業は随時進めていきたいです。

受電機で受けたマイクロ波を電気に変えて、LEDライトが光っている様子
受電機で受けたマイクロ波を電気に変えて、LEDライトが光っている様子

ベンチャー企業であるSPTの魅力を教えてください。

古川

主体的に働けることが一番の魅力です。無線給電の事業自体が、まだ法律も整っていない領域なので、そこに取り組めることにやりがいを感じます。過渡期だからこそやりがいがあります。

武田

当社で扱っているのは、社会を変える技術です。まだ黎明期ですが、これから形にしていくところに中心になって関われることが嬉しいです。


SPTではどういう人物を求めていますか。

古川

独創的な技術を持っている人やたくさんの特許を出願している、もしくは試したいアイデアを沢山持っている技術者を求めています。異業種を組み合わせることで新しいものが生まれると思っているので、既存の技術や領域にとらわれない人が魅力的だと感じています。


起業やECC-iCAPに関心を持つ方へのメッセージをお願いします。

古川

起業の目的とそれに向けたアプローチの方向性が合っていれば、必ず協力してくれる人が現れます。自分がやりたいことを発信して、応援してくれる人を見つけながら行動できれば、きっと良いスタートが切れると思います。

(2020年6月取材)


※ECC-iCAP:Entrepreneur Candidate Club (URL : https://www.kyoto-unicap.co.jp/ecc-icap/

Space Power Technologiesウェブサイト
https://spacepowertech.com/