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#09 100年つづく農業のかたちから、持続可能な社会の実現を目指す

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  • 株式会社坂ノ途中
#09 100年つづく農業のかたちから、持続可能な社会の実現を目指す

100年先も続く農業のかたちをつくる。その思いでスタートした株式会社坂ノ途中。環境負荷の小さい農業の普及を目指すとともに、新規就農者をパートナーとして農薬や化学肥料に依存しない農法で収穫した野菜を販売するという事業を展開して、今年で12年目を迎えている。スタート時は3名だったが、今や50名を抱える会社へと成長した。サスティナブルという考え方が、ようやく社会に浸透しつつある今、早くからそのテーマを掲げて歩んできた同社の代表取締役 小野邦彦さんに、現在のさまざまな取り組みについて語ってもらった。(聞き手:郡 麻江)

まず、クリアすべき課題は、新規就農者が経営的に成り立つということ


株式会社坂ノ途中の起業のきっかけとなったことはどんなことでしょうか。

小野

複合的な要素があって、これ!と言えるものはないのですが、一つは学生時代に、バックパッカーで世界中を巡ったことでしょうか。世界に出ると、いろいろな社会を実際に見ることができますよね。たとえばチベットだったら、標高が高い土地に順応できる生き物の種類が少ないので、人間も含めて生態系が非常に単純なんです。下草をヤクが食べて、ヤクの糞を燃やして燃料にして、今度は人間がミルクを温めて、その時の灰が、また下草を育んでいく、という物質循環が目の前できちんと行われているんですね。同時に、そもそも、なんでこんなに人は自然環境や動物や、いろいろなものに迷惑をかけながらしか生きられないのだろう?という疑問をずっと抱いていたこともあって、なにかしら持続可能な社会に向かっていく仕事ができないだろうか?と思ったんです。中でも、現代農業は効率化や短期的な収量を追いかけることに非常に工夫を凝らしているけれど、環境負荷を下げていくという目線はあまりなかった。そこで、「環境負荷を小さくして100年続く農業のかたち」を自分たちでつくっていこう、そんな社会をつくることを仕事にしようと考えました。

小野邦彦 代表取締役
小野邦彦 代表取締役

事業のコンセプトを定められた後に、すぐ起業をされたのですか?

小野

起業するにはやはり資金が必要ですので、大学卒業後まずはフランス系の金融機関に就職して2年と少し働いて資金を貯め、退職後、京都で起業しました。最初は3人から今の会社を始めて、数年間は自己資金でやりくりをしていて、小さい枠内で収支を合わせながらやっていました。僕らのやっていることがそれなりに注目されるようになったんですが、自分たちは実際には社会のいろいろな課題を解決していないのではないか?という思いが徐々に湧いてきたんです。それで、より強いインパクトを生み出せるような会社に変わっていきたいと考えて、6期目にシードの調達をしました。一般的にはもっと初期段階でするケースが多いと思うのですが、6期目に初めて調達して、8期目がシリーズAで、10期目がシリーズBで、シリーズBの時に、京都iCAPさんにも入っていただきました。


持続可能な農業と御社の事業とはどのようにリンクするのでしょうか?

小野

現在、取引している農家さんが関西を中心に300軒ぐらいおられて、その9割近くが新しく農業に挑戦している人達です。農業の世界というのは、なかなか閉鎖的で、親が農家だと始めやすいのですが、親が農家ではない人が農業を始めるというのは非常に難易度が高いんです。環境系への負担の小さい農業を広げたいと思っても、日本の場合、既存の農家さんに考えを変えてもらうのは高齢化もあって、正直、難しい。それに比べて、新規で農業をやりたいという人は、そもそも7割ぐらいの人が「どうせやるならオーガニックでやりたい」という考えなので、こちらとしてもパートナーシップを組みやすいわけです。問題は、彼らが食べていけるかどうか?ということなんです。


新規で就農する人が経営的に成り立っていけば、日本でも環境への負担の小さい、つまり持続可能な農業が広がっていくということになるわけですね?

小野

そうです。でも、現実的には、新規で就農した人は、経営的に成り立たない人がほとんどで、たとえば、貯金が尽きたら辞めてしまうということが多かったと思います。本当に品質の良い、美味しい野菜をつくっていても、なかなか生産量が追いつかず不安定なので、そのままでは既存の流通に乗せることができない。そもそもそんな少量不安定な農作物を扱いたがる流通の会社というのがないですしね。そこを僕たちの会社が、少量でも不安定な生産でも、品質がよければ、ちゃんとした値段で流通できる仕組みをつくったわけです。そんなことをやっている会社は、おそらく日本で唯一の会社、うちの会社だけだと思いますよ。

京都・亀岡、柴田ファーム
現在、約300軒の農家がパートナーとなって、環境負荷の小さな農法でつくった美味しくて安全な野菜を提供くれている。(京都・亀岡、柴田ファーム)

質は良いけれど、生産量が安定しない野菜の販路をどのように広げてこられたのでしょうか?

小野

まず、個人のお宅への定期宅配を中心に販路を広げていきました。いろいろな農家さんがさまざまな工夫をしてつくった野菜なので、変わった品種が入っていたり、毎回の定期宅配の内容がバラエティ豊かで飽きることがないんです。よく知らない種類の野菜が届くけれど、美味しいし面白いと感じる方がリピートしてくださっています。そこから広がって、レストランさんや、百貨店さん向けの卸しもするようになりました。あと、うちの強みは、トレーサビリティが100%取れているということ。100%取れているから、顧客からの声を正確に生産者にフィードバックできるんです。茄子の味をすごく褒められる農家さんなら、この畑は茄子に絞ってつくってみませんか?とか、作付け計画を販路も視野に入れて一緒に立てて、収益性を上げていく工夫をしています。そういう努力をすることで、ちゃんとした合理的な価格で、野菜を安定的に買い続けることができているのだと思います。

根っこは一つ。それぞれが「持続可能な農業の実現」につながる事業を広く展開


現在は約50名の社員さんがいて、アルバイトなども合わせると大きな組織に成長されたと思います。業務内容も増えていますし、人材を適材適所でうまく動かしていくために、どのようなことに留意されていますか?

小野

まず組織図があって、このポジションに誰々を当てはめていくというやり方ではなく、個々人のキャラ、つまり人間性が活きるような、そんな体制にしていきたいと思っています。僕は人にレッテルを貼るのが一番、よくないと思うんです。日本の若者って、僕もそうですが、特に学校などの教育現場で「これこれはしちゃだめだ」という環境で生きてきた人が圧倒的に多いと思います。その環境をなんとか生き抜いてきた子たちだから、彼らが今話していることは、内面から出てくる真実の言葉なのか?問題を避けるようにうまく話しているだけなのか?その本質を見る必要があると思うんですね。人を動かすには、人間性の発露みたいなものをちゃんと見逃さずに聴き取れるか否かは、とても重要だと思います。実際、「海ノ向こうコーヒー」などの新しい事業は、そんな声=発露から生まれたものです。

海ノ向こうコーヒー
「海ノ向こうコーヒー」は、東南アジアの国々で、農業と林業をかけ合わせた「森をつくる農業」と呼ばれる農法、「アグロフォレストリー」の考え方を用いたコーヒー栽培の普及に取り組む事業。学生アルバイトからの発案で事業化したもので、その本人は新卒入社した瞬間から、新規海外事業責任者となって活躍しているそうだ。

今年で12年目を迎え、前出の「海ノ向こうコーヒー」や、新しくオープンしたレストラン「本と野菜OyOy」、自社農園などさまざまなプロジェクトを展開されていますね。

小野

いろいろなことに手を広げている会社というイメージを持たれる方も多いのですが、そんなことは全くないんです。僕自身、人間ってせいぜいやれることは、ゼロか、一つしかないと思っています。ただでさえ、サバイブできる確率は高くないのに、パワーが分散したら、ますます生存率が下がると思っていますから。基本は、どうすれば環境負荷の小さい農業が広がるか?しか考えていませんし、そこが全ての起点です。飲食店も小売りも通販も海外事業も、別々に動いているようで、基本がつながっていて、互いに成り立つような設計を目指しています。根っこは一つ、それぞれの事業がそれぞれを強くするためにある。これからも「持続可能な農業」のために役立つものは、事業として手がけていきたいと思っています。

「本と野菜OyOy」の店内
「本と野菜OyOy」の店内。物販コーナーでは、料理、食、暮らし、農業など多岐にわたるテーマの書籍と、契約農家がつくったオーガニックの野菜を販売。書籍は、東京【鴎来堂】とのコラボレーションで展開している。
「本と野菜OyOy」のスープランチ
「本と野菜OyOy」のスープランチ。丹波シメジの出汁をベースに、柔らかく煮込んだ肉と時季の野菜がごろりと入っている。しみじみと美味しくて健やかな食。ビーガン対応もしている。「海ノ向こうコーヒー」やデザートも人気だ。

最後に、これから起業をしてみたいと考えている人へのメッセージをお願いします。

小野

僕自身、若い頃から、学校でも家庭でもいろいろな違和感を覚えながら生きてきました。その違和感は、多少なりとも誰でも感じていることだと思うんです。まず、その違和感を持ち続けて欲しい、丸め込んでなかったことにするのではなく、語り続けてほしいと思います。ある意味、一種の違和感が、ものごとを起こす発端になったり、プロジェクトを進める原動力になると思うんです。あとは、何事においても僕は、基本「一点突破しかありえないと思う派」です。自分はどの一点を突破するのか?それを決めるのが、事業の第一歩として重要です。僕の場合は、昔から変わらず、「環境負荷の小さい農業を広げたい」が、まさにその一点で、これからもそこは変わらず、ブレず、突破していくつもりです。


本日はお忙しい中、ありがとうございました。

(2021年3月取材)


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