Series EMBARK
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#01 安全なiPS細胞医療の世界
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- 株式会社aceRNA Technologies

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から、2018年5月に新しいベンチャー企業、株式会社aceRNA Technologies(アセルナテクノロジーズ)が生まれた。CiRAの副所長である齊藤博英教授ら研究者と、進照夫氏・都志宣裕氏らからなる経営チームの共同創業である。同社は分化状態の不良や目的外のいわゆる「不純な」細胞を精製し幹細胞医薬の安全性を高める技術の世界標準を目指す。さらにはRNA創薬への進出を狙うなど意欲的だ。細胞医療の事業経験を持たない経営チームが創業に至るストーリーと、それを可能にする京都大学のバックアップ体制を聞いた。(聞き手:キャリアコンサルタント岩元真一)
大学のシーズが人生を変えた
はじめまして。京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)が運営している起業家候補クラブ、Entrepreneur Candidate Club (ECC-iCAP※)の会員から経営チームが誕生した初めての企業だそうですね、おめでとうございます。本日は、代表取締役の進さんと取締役の都志さんに、創業に至るまでのお話を伺います。よろしくお願いします。進さんはどのようにキャリアを歩んでこられたのですか?
- 進
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よろしくお願いします。子供のころから虫が好きで、高校では生物研究部、その後九州大学理学部に進み大腸菌やたんぱく質について研究しました。その後藤沢薬品(現・アステラス製薬)で薬理研究者として勤務しました。
その後、大手企業である藤沢をご退職になる。このきっかけは?
- 進
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起業です。藤沢での今後のキャリアが見通せてしまったことも理由です。面白くなかったのだと思います。バブル経済の真っただ中で起業が流行していたことにも背中を押されました。
どのような事業で起業されたのですか?
- 進
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学習塾ビジネスでしたが、結果的に大失敗に終わりました。自分の手元に残ったのは借金と教訓でした。敗因は、起業することが目的化していたことです。今考えると、肝心の事業ビジョンや戦略などもない、無謀な戦いだったと思います。
その後、どのように再起されたのですか。
- 進
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藤沢時代の先輩の紹介で、創薬CROに移りました。約10年にわたり新しくて面白い仕事をさせて頂き、順調にポストも年収も上がり、満足感もありましたが、また偶然にも藤沢時代の親友に再会、彼の関係するVC(バイオフロンティアパートナーズ)に参画しました。
人とのご縁、一期一会を大切にされてきたのですね。CROからVCに移られるとは、大きなキャリアチェンジですね。
- 進
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VCでは食品メーカーの新規事業として立ち上げた企業に投資し、自分も役員として出向しました。最終的には大手メーカーへの事業売却を成し遂げ、事業を収束させました。次は沖縄発バイオベンチャーの代表取締役に就任、事業を立て直したのちに事業を譲渡し現在に至ります。
バイオベンチャーの経営では豊富な成功体験をお持ちなのですね。京大発のバイオベンチャーを創業されるきっかけは?
- 進
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京都iCAPのキャピタリストから、齊藤教授のシーズ(RNAスイッチ)紹介を受けたことです。技術を知って衝撃を受けました。聞けば聞くほど事業としての可能性を強く感じるようになりました。これは世の中にとって必要な技術だ、再生医療分野への貢献に留まらず、RNA創薬での展開も出来る!と興奮したことを覚えています。その後、ECC-iCAPでのアクセラレーションや都志との合流を経て起業に至りました。

研究者・iCAPと一緒に事業を作りこむ
起業準備についてもう少し詳しく教えてください。大学側や京都iCAPのサポートは十分でしたか?
- 進
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我々は細胞医療の事業経験を持たないことが悩みの種でした。京都iCAPの担当キャピタリストが製薬会社出身で、専門的な知識や経験があり、資本や資金執行政策だけではなく、事業や知財戦略まで一緒に作りこみました。厳しくつらい議論を重ねましたが(笑)、その分、頑健で力強い事業計画になりました。京都iCAPは大学発VCであり、学内の調整もスムーズでした。
起業に至るプロセスで、京都iCAPと民間VCとの違いは感じられたでしょうか。
- 進
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民間VCとの違いとしては、景気に左右されずに、民間VCでは投資困難であろうと思われるシード段階から、マイルストン投資を受けられることが挙げられます。その後も成長ステージに応じて柔軟に対応頂けることも特徴だと思います。
それは心強いですね。VC出身の進さんに言われると、京都iCAPの違いをリアルに理解できます。取締役の都志さんはどのようなキャリアを歩まれたのですか?
- 都志
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一般的な会社員の子供として育ちました。私の血筋が癌家系だったこともあり、癌治療の社会課題を自分で解決したいと考え、大学で応用生物学部を選びました。
一方、新卒で大手税理士法人に就職されました。また、なぜでしょう?
- 都志
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大学生になった頃から、自分で何かビジネスを仕掛けてみたいと考えるようになりました。起業には豊富な社会経験が必須です。でも自分はまだ若い。そこで、多くの業界や会社のリアルな経営課題を短い期間で知ることが可能な税理士法人を選択しました。
若い起業家が経験を蓄積できる
今回、機が熟して起業されたのですね。経営に参画された経緯についてお聞かせください。
- 都志
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税理士法人の仕事は自らの視野を大きく広げてくれました。同時に、自分で何かを仕掛けたいという長年の気持ちが高まり、各種交流会やイベントに参加するようになりました。ECC-iCAPの会員になって起業支援ピッチイベントに参加し、シーズに出会いました。振り返ると、半年足らずで起業することになりましたね。
物凄いスピードで運命が変わったのですね!ECC-iCAPの会員になられた理由をお聞かせください。
- 都志
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京都大学には世界トップレベルの研究者が活躍しています。ライフサイエンス分野でユニークかつ最先端のシーズの紹介を期待して参加しました。あとは東京でもイベントを開催していることも大きかったですね。近い(笑)。
実際にイベントに参加された感想はいかがでしょうか。
- 都志
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他のイベントとは全く違いました。世界トップの科学者のプレゼンテーションを直接聞き、テーブルを囲んで事業化に向けた意見を直接交換できました。近い距離で熱い議論を交わせる機会は貴重でした。
それでもまだ、起業に対する恐れや迷いもあったのではないかと思いますが。
- 都志
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不思議なことにありませんでした。それよりも、RNAスイッチを早く事業化し世の中に役立てていきたいとの想いが勝りました。また、キャリアの観点からも、20代後半で経営チームに取締役として参画できることは必ずプラスになると考えました。大手企業とは違い、職域を限定せずに必要なことは何でもやらないといけないことも、とても良い経験だと感じています。
仰る通りですね。キャリアコンサルタントという客観的な立場から申し上げても、起業というプロジェクトの経験が出来ること、困難に立ち向かうチャレンジ精神について高く評価できると思います。
京都大学からの起業を検討することの強みは何でしょうか。
- 都志
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先ほど述べた通り、事業化可能なシーズと、起業の土台が既に整っていることが大きなアドバンテージです。VCである京都iCAPも研究成果の事業化が目的で、同じゴールを目指せます。大学全体が起業をバックアップしているということで、本当に心強く、ありがたく感じます。

今後の抱負をお聞かせください。
- 二人
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RNAスイッチは幹細胞医薬の安全性や品質を向上させる重要な技術です。我々が事業を担うことで、人々の健康と幸せに大きく貢献していきたいです。
最後に起業を目指す方々へメッセージをお願いします。
- 二人
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京都大学には工学、理学、農学、医学・薬学等の幅広い分野で世界トップレベルのシーズが沢山存在します。きっと皆さんも惚れ込むシーズがあると思います。私たちのように運命を変えられるかもしれません。まずは気軽に京都iCAP が主催・運営しているECC-iCAPへ入会、イベント等に参加されてみてください。
本日は誠にありがとうございました。
(2018年5月取材)
急ぎながらも焦らず落ち着いて研究を行うよう指導したiPS細胞研究所(CiRA)の山中伸弥先生。CiRA発ベンチャーである当社の名前には、焦らず着実に進める決意(焦るな)と、RNA創薬のエース(ace)でありたいとの願いが込められています。記事中の細胞選別事業に加え、mRNAやウィルス医薬品の次世代化への取り組みを通じて社会貢献を目指しています。最近伸び盛りのaceRNAです。

八木 信宏
※ECC-iCAP:Entrepreneur Candidate Club (URL : https://www.kyoto-unicap.co.jp/ecc-icap/)
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株式会社aceRNA Technologies ウェブサイト
- http://www.acernatec2.com/