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iPS細胞(人工多能性幹細胞)を原料とした心筋細胞シートの開発を手掛ける大阪大学発の再生医療ベンチャーとして2017年に創業したクオリプス。心筋細胞シートの移植は、人工心臓など限られた手段しかない重症心不全(虚血性心筋症)に対する有効な治療法であるとして、実用化に向けた研究開発に取り組んでいる。2023年6月に東京証券取引所グロース市場に上場を果たし、本年4月には厚労省に、iPS細胞の再生医療としては世界初となる心筋細胞シートの薬事承認申請を行ったことから、実用化への期待が高まっている。代表取締役社長の草薙尊之氏に、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)で同社を担当している執行役員・事業企画部長の河野修己がインタビューし、事業の現状や目指す将来像について聞いた。
(文:田北みずほ)
草薙さんのご経歴とクオリプスの代表取締役社長に就任されるまでの経緯を教えてください。
私は1981年に日本興行銀行に入社しました。帰国子女ということもあって、海外に携わる仕事がしたいと希望して国際業務を担当し、アメリカで資産運用業務に携わっていた時期もありました。そうした中で、これからは株式市場を分析する仕事が重要になると考え、興銀証券で株式市場の分析を、そして興銀第一ライフアセットマネジメントでファンドマネジャーを担いました。その後、資産運用会社などに携わっていたとき、大阪大学でiPS細胞由来心筋細胞シートを開発し、実用化を目指してクオリプスを創業した澤芳樹先生(現在はクオリプス取締役CTO、元大阪大学医学部長/心臓血管外科教授)に出会ったんです。
どなたかから紹介されたんですか。
澤先生の同級生で、私の興銀時代の先輩です。クオリプスがiPS細胞で心不全の治療を目指していると聞いて、そんなことができるものなのか私にはわかりませんでしたが、とにかく澤先生に会ってみようと思ったんです。実際に澤先生に会って話をしたとき、面白い人だなと思ったんですよ。これはいけると確信しました。
何かピンとくるものがあったんですか。
澤さんは知識の幅が広く、研究者として一流であるだけでなく、考え方が実用的でビジネスセンスがあると感じました。私はファンドマネジャー時代にいろいろな経営者を見てきましたから、澤さんのような人がいれば、絶対にクオリプスはIPOできると直感しました。ぜひ一緒に仕事をしたいと伝え、2020年に取締役として入社し、同年8月に代表取締役社長に就任しました。

2023年6月に東証グロース市場に上場を果たしました。何か苦労されたことはありましたか。
私自身は苦労というものはなかったですね。共同研究開発をしている第一三共株式会社との権利関係を確定させたり、優秀な人材の確保に力を入れたり、といった社内体制の整備をしたくらいです。澤先生の技術があればこそのIPOだったと思います。ただ、心筋細胞シートの実用化までにはまだ時間がかかります。企業や大学から細胞製造を受託するCDMO(細胞製品の製造開発受託)といった他の事業を含め、IR情報を定期的に提供することで投資家の信頼につなげることは、経営者として常に意識しています。
2021年に澤先生がCTOに就任されました。お二人はどんな感じで仕事を進めているんですか。
私はサイエンスのことは門外漢ですから、すべて澤先生に一任しています。一方で経営については任せてもらっていますので、互換関係ができているという感じですね。
上場に至るまでの京都iCAPのサポートについては、どのように感じていますか。
2018年に初回投資、2020年には追加投資をいただき、研究開発が大きく進みました。VCは出資だけではなく、アドバイザー機能があります。河野さんはバイオベンチャー担当キャピタリストのベテランとして圧倒的な知見がありますから、相談相手として非常に頼りになる存在でした。

心不全を細胞の力で治すことを目指している企業は日本だけではなく、世界にも数多く存在しています。その中において、クオリプスの技術的優位性はどこにあると考えていらっしゃいますか。
一つは安全性です。iPS細胞は癌化のリスクがあると言われていますが、当社が2020年から行っている医師主導治験において、癌化した事象はありません。また、この治療法における手術はiPS細胞由来心筋細胞シートを患者の心臓の表面に貼り付けるだけです。開胸手術ではなく7cm程度の小さな隙間からシートを挿入する方法なので、患者や執刀医の負担も少なくて済みます。作製したシートを通常の温度で長距離輸送することもできます。2020年から2023年までに8例の治験を行っていますが、術後の経過は一貫して良好で有効性も証明されています。
今年4月に世界初のiPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認申請を成し遂げました。何か大変だったことはありましたか。
私としては特に大変だったと感じる点はありませんでした。極めてスムーズにいったほうだと思います。
承認取得時はいつ頃だと予想していらっしゃいますか。
できるだけ早い時期を目指していて、2026年2月を目標としています。心筋細胞シートの製造は大阪・箕面市に自社研究施設を兼ね備えた商業用培養加工施設を建設し、製造から品質管理まで一貫して行う体制を確立しています。治験の3例目までに使用した心筋細胞シートは大阪大学での製造でしたが、それ以降の5例は当社の設備で製造しています。
御社の心筋細胞シートが厚労省からオーファンドラッグ(希少疾病用再生医療等製品)に指定されたことは、申請の審査を加速することになるのではないでしょうか。
期待はしています。
心筋細胞シートのほかに、カテーテルを使った治療の研究も進んでいますね。
医療機器メーカーの朝日インテック株式会社とともに、iPS細胞をこれまでにない新たなアプローチで心臓へ移植する治療技術の研究開発を進めています。開発は非常に順調で、2026年、2027年ごろから治験を目指しています。
2024年7月にアメリカで子会社のiReheartを設立されています。アメリカでは今後どういう方向で事業を進めていくお考えでしょうか。
アメリカでの展開に向けて、改良版iPS細胞由来心筋細胞シートを開発しています。これは、現在の心筋細胞シートよりも免疫抑制剤を使わなくていいという新製品です。スタンフォード大学心臓胸部外科と共同研究契約を締結して、ブタの心臓に移植する共同研究プログラムを実施しており、FDA(米国食品医薬品局)への治験薬申請に使用するデータを収集しています。すでにFDAとの協議も済んでいて、数年後に治験を目指す準備に入っている段階です。重症の心不全に限らず、より幅広い患者に適用できるようにするため、アメリカでの開発から全世界に広げていくことを考えています。

大阪・関西万博でiPS細胞由来の心筋細胞シートとミニ心臓を展示されました。万博の目玉展示の一つとして大変話題になりましたね。
来場者から非常に大きな反響がありました。澤先生がさまざまなテレビ番組に出演して心筋細胞シートをアピールし、シートや治療法について広く知られていたことも多くの人びとの関心を集めた要因です。万博での展示には、シンガポール、タイ、サウジアラビア、オランダなど、海外の要人も多数訪れて、澤先生の説明に真剣に耳を傾けていました。どこかの国と連携して、ビジネスができる可能性も出てくると思います。

経営者として将来的にクオリプスをどういう会社にしたいとお考えですか。
世界で通用する日本で初めてのバイオ会社になることですね。そのために、まずは日本での実用化に向けた承認取得、さらにそれをてこにしてFDAの承認が取れるような製品を開発することも視野に入れています。そこから日本のiPSを中心とした再生医療をもっと広げ、産業クラスターを創り上げていきたい。当社だけでなくiPS自体を一つの産業に確立させたいと考えているんです。その一環として今、研究機関やベンチャー企業、病院などが集まる再生医療の拠点、中之島クロス(大阪市)でiPS細胞の大量培養も手掛けています。関西をバイオのハブにして地域を活性化し、日本の産業を強くしていきたいですね。
(2025年8月取材。所属、役職名等は取材当時のものです)
iPS細胞を使った再生医療としては世界初の薬事承認申請を成し遂げたのが、今回紹介するクオリプスです。心臓領域で世界的な研究者である大阪大学心臓血管外科学の澤芳樹教授(当時、現在は未来医療学寄附講座教授)が創業し、心不全などを対象とした新規治療技術の開発に取り組んでいます。2023年6月には東証グロース市場に上場。調達した資金を活用し、米国への事業展開も始まっています。

河野 修己

クオリプス株式会社
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