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地球温暖化問題の解決に向けた技術開発は世界的に高いニーズがある。OOYOO(ウーユー)は、CO2を分離・回収する高性能な分離膜の開発を行う日本発のスタートアップである。さまざまな排気ガスを低コストで素早く分離する技術を活用し、パートナー企業とともに社会実装に向けた研究開発が進んでいる。創業者である京都大学iCeMS(高等研究院物質-細胞統合システム拠点)教授のイーサン・シバニア氏、代表取締役CEOの大谷彰悟氏が、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)執行役員の八木信宏を交えて、事業に懸ける思いやディープテックスタートアップに必要なことを語ってくれた。
(聞き手:田北みずほ)
ケンブリッジ大学で博士号を取得した後、2003年に高分子化学を研究するため、京都大学へ来ました。その後、アメリカの大学やケンブリッジ大学などで研究を続け、再来日したのが2013年。京都大学で研究室を設立しました。高分子化合物で作った膜を使って空気や水の浄化技術の開発をしていたところ、排気ガスのCO2分離・回収技術に高いニーズがあることがわかったんです。自分の研究を社会課題の解決に役立てると確信し、ガス分離膜の開発を手掛ける会社の創業を決めました。2020年1月です。日本はこの分野の競合が少なく、チャンスがあると思いました。
「OOYOO(ウーユー)」という社名は特に意味はなくて、頭の中に浮かんだ音のようなものです。分野を限定せず、さまざまなことにチャレンジできる会社に、という思いを込めています。
実は私は京都iCAPのキャピタリストだったんです。総合商社で海外の電力ビジネスを手掛け、事業会社を任せてもらってきた経験から、自らスタートアップの経営を手掛けてみたいと思うようになりました。それで、ベンチャーキャピタルなら魅力的な技術シーズやスタートアップにたくさん触れることができる、という思いもあって転職したわけです。
2023年の11月ころ、シバニアさんに出会って話を聞くうちに、投資だけではなく場合によってはOOYOOに移籍してでもこの事業を手掛けてみたいと思いました。理由は2つあって、1つはOOYOOのCO2分離膜技術は私がこれまで総合商社で手掛けてきたインフラの世界の一部となって、社会に大きなインパクトを作れる技術だと確信しました。もう1つは、シバニアさんがとてもクレイジーな方だったこと(笑)。非常にリスクが大きいことにチャレンジしている。でも、イノベーションを起こすのはクレイジーな人が多いと思うんですよね。直感的に、この人に賭けてみようと思いました。正式に代表取締役になったのは2024年6月です。
当時、化学メーカーをはじめ、いくつかの企業と共同研究の話が進んでいました。でも、私はあくまでも0から1を生み出すスターターであって、経営者ではありません。一緒に飲んだら誰とでも友だちになれる自信がありますが(笑)、ビジネスの関係づくりはそう簡単ではない。大谷さんはリレーションシップがあるから、ビジネスを創れる人だと感じて経営を託すことを決めました。
OOYOOと出会った2020年は投資に至っておらず、まだ難しいかなという状況でした。ですが、2024年に大谷さんが「この技術はすごい、投資を検討したい。場合によっては移籍したい」と言ってきたんです。それで私はシバニアさんと話をしました。私自身、研究所やメーカーでの開発経験を持つサイエンティストです。サイエンティストの視点で技術や目指していることなど、いろいろな話を聞きましたね。そのとき、テクノロジーを世界に展開していきたいというモチベーションは一緒だと実感しました。シバニアさんと大谷さんはやりたいことをやる、京都iCAPはみんなが幸せになれるよう生きたお金を出す。そのための戦略を一緒に作っていこうと、それぞれが前向きに努力した結果、2024年の投資に至りました。
八木さんと会う前は京都iCAPに興味はありませんでした。でも、会った後でマインドが180度変わったことを覚えています。ベンチャーキャピタルは技術の理解はそこまで深くなくてもいいのかもしれませんが、八木さんは研究内容に向き合って、技術を深く理解してくれた。ビッグインパクトでしたね。
主役はあくまでも研究者とその技術。そこにしっかり向き合ってくれたのは、京都iCAPならではかもしれないですね。
技術は研究者の魂。長年にわたって手掛けてきた研究を事業化するとき、経営や投資を任せるのが誰でもいいわけじゃない。研究者の命を預かる、という意識を投資家は持たなきゃいけないと思っています。
ディープテックは特有の難しさがあります。たとえばソフトやAIはすでに製品があるから、ビジネスに直結しやすい。でもPOC(概念実証)もやっていないような段階で理解を示してくれるベンチャーキャピタルがなかったら、ディープテックは死んでしまいます。
CO2の分離・回収技術はいくつか種類があります。現在、主流なのは化学物質を使った化学吸収法で、二酸化炭素を液体に溶け込ませ、熱を加えて取り出すという方法です。熱が必要なので非常にエネルギーコストがかかります。これに対して、膜分離は複数のポリマーを組み合わせた薄い膜にガスを通してCO2を分離・回収する方法です。吸収法よりも装置を小型化、軽量化できるという優位性があります。
OOYOOは複数のポリマーを組み合わせ、高い精度と透過速度を両立させた独自の分離膜を開発しました。従来の膜技術に比べて、分離効率が大幅にアップしています。これによって、エネルギー消費を抑え、低コスト、省スペースで効果的にCO2の分離・回収が可能になります。
より高性能な分離膜と製造プロセス、そしてプラントの開発を実現するため、化学メーカーや蓄電池メーカーなどと積極的に共同研究を行っています。現在は、膜技術、膜製造、CO2分離モジュールと装置の開発を進めているところで、2030年には社会実装を実現する計画です。
分離膜の耐久性の向上と大量生産体制を作ることですね。より高性能な分離膜の開発とともに、できるだけ一般的な材料や技術でシステムが構築できるよう、パートナー企業と研究を重ねています。発電所やゴミ処理場をはじめ、排気ガスを出すさまざまな施設が導入できる、省スペースで省エネルギーなCO2分離回収プロセスを作りたい。ここ1年以内に1日あたり10トンのCO2を回収できる装置の開発を目指しています。
集めたCO2の出口ですね。農業などに使う方法はあるんですが、需要としてはまだかなり小さい。今のところ、埋めるのが有力なんですが、日本ではまだインフラは整っていませんし、回収したCO2を運ぶのにコストがかかってしまいます。
回収したCO2を活用することができればいいですよね。循環型社会をつくる新しい技術が必要です。私はこれから2つほど会社をつくる予定です。課題解決に貢献できる新しい技術を世の中に広めたいと思っています。
僕はOOYOO、そしてシバニアさんがこれから創る会社の存在は、日本の大学はどうしていけばいいのかというテストケースになると思っています。技術は容易に国境を超えていきます。革新的なテクノロジーを日本から生み出し、世界へと広げていく。チームとか技術とかのネイチャーがグローバルであることが非常に重要で、拠点を日本に置くかどうかは問題ではない。僕らとしてはグローバルに展開する大学発スタートアップの成功モデルを創りたいと考えています。
地球環境を維持するために超えてはならない限界を示したプラネタリーバウンダリーという指標があります。気候変動や大気汚染などが地球環境の限界を超えてしまったら、人類は絶滅してしまう。人間と環境のバランスがとれた社会をつくるために、もっといろいろな技術を開発したいと思っています。
経営を任されている身としては、会社の方向性がシバニアさんが叶えたいことに合っているのか?ということを常に問いながら実装を実現し、スケールアップしていきたい。分離膜が脱炭素社会のインフラの欠かせないピースになって、地球規模でインパクトを与えたい。OOYOOのコアバリューは「利他主義」。シバニアさんの夢やパートナーの皆様の夢、そして自分の夢を叶え、最終的に地球全体がハッピーになることを目指していきたいですね。
私は今54歳ですが、一つ後悔していることがあります。もっと早く起業すればよかった。10年くらい前に。起業を考えている若い人は、大手企業で5年くらい働いて組織や仕事の流れを学び、なるべく早く自分の会社を創ってください。
(2025年7月取材。所属、役職名等は取材当時のものです)
砂と石をふるいで分けるように、特殊な膜で空気中の二酸化炭素だけを濾し取ってしまうOOYOO。脱炭素技術の切り札として期待されています。大谷CEOはジャマイカのナショナルチームの監督を目指した野球の逸材で、創業者のシバニア教授は芸術や途上国支援など社会活動の実績を持ち、ナサラ博士は家族をこよなく愛するイケメンです。この個性とダイバーシティが、分断される世界を脱炭素技術で再び一つにしてゆく原動力です。
八木 信宏
株式会社OOYOO
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